教会オルガニスト
でも、ピアノは弾けてもパイプオルガンなんて触ったこともありません。それにオルガンは聖歌の伴奏をするだけでなく、聖体拝領をはじめ様々な儀式のバックミュージックも務めるので、まさにミサの進行を左右する重大な存在…そんな、弾いたこともないような人に務まるんでしょうか。
とはいえ、神父さんには是非是非!と頼まれるし、クリスが勝手に自慢しちゃうから、今更「やっぱり弾けません」とは言えないし…で、仕方なく引き受けることになりました。
![CIMG3081_convert_20120323195210[1]](https://blog-imgs-45-origin.fc2.com/a/n/t/antiqueclematis/201203232005230ee.jpg)
ドイツで教会のオルガンを弾くというのは、実はすごく名誉なことらしく、クリスは勝手に大はしゃぎ。「バッハもベートーベンも、元はみんな教会オルガニストだった!」というのです。
確かに、ドイツの教会は、どこも日本にあったら「大聖堂」と言われておかしくないほどバカでかく、信者の数も半端ではありません。だからその大合唱を支えるオルガンは、まさに責任重大です。
…これはヤバい(汗)
神父さんと約束して、水曜日のお昼に早速練習させてもらいに行きました。
考えてみたら、誰もいないネオゴシック大聖堂のパイプオルガンを自由に弾けるなんて、なかなか経験できないことかもしれません。
![CIMG3082_convert_20120323195505[1]](https://blog-imgs-45-origin.fc2.com/a/n/t/antiqueclematis/201203232006263fb.jpg)
一通り練習した後で、ついつい誘惑に勝てなくなって「映像の20世紀」のテーマとゼクトバッハを大音響で弾いちゃいましたよ。
ドイツの大聖堂のパイプオルガンでこれ弾いたの、もしかしてわたしが初めてじゃないでしょうかっ!←
それにしても、聖歌の伴奏っていうのは意外に難しいです。
楽譜だけ見ると非常に簡単で、初見でもサラッと弾けるレベルなのですが…リズムの取り方、タイミングが非常に難しいです。なんというか、独特のリズムがあって、一般のクラッシック音楽とは異質です。
これは家で練習した方がいいかな…と、楽譜を家に持ち帰って家のピアノで練習していたところ、それを見ていたクリスがふと、言ったのです。「君はオルガンが弾けるけれど、僕は何もできない。教会のために、僕に何ができるだろうか?…と考えたら、国家資格を持つ元大工として、教会の庭の整備や建物の修理なんかをやらせてもらえないか…って、神父様に頼むことにしたよ。」
その言葉を聞いて、ふと、思いました。クリスは今でこそ銀行員ですが、わたしと出会ったころは国家資格を持つ大工職人でした。そして、クリスの本当の名前はクリスティアン…クリスティ、つまり、キリストのこと。キリストという名の元大工…。イエスは元大工だった…。その時、こんなことを思い出しました、そう、この人と出会ったとき、思ったのです、「この男が存在するなら、神様は絶対に存在する!」と。彼と出会った日の感動、そして、彼の存在の中に神の存在を見出したのだということ。だから彼のプロポーズを受けたのだということ。日々の生活の中で忘れかけていた彼への純粋な愛と信仰心が、再び蘇るのを感じました。
その、静かな感動に浸りながら、もう一度、聖歌を弾いてみたら…あら、不思議。これまで異質だと感じていたリズムが、すっかり馴染みの呼吸のように感じられ、すんなり演奏できたのです。
…そうか!このどんな西洋クラッシックとも異質な独特のリズムは、信仰のリズムだったんだ…。
![CIMG3080_convert_20120323195335[1]](https://blog-imgs-45-origin.fc2.com/a/n/t/antiqueclematis/201203232008241dd.jpg)
そんなわけで、水曜日の朝ミサでオルガニストデビューしました。
ミサの後で、神父さんがわざわざ朝食に招待してくれたので、一緒に遅い朝食を取り、コーヒーを飲んで、おしゃべりしましたが、この神父さん、本当に親切で面白い!
「もしよかったら、一緒に朝食でもどうですか?」と誘われたので、たまたまそのあと用事がなかったからお呼ばれされたけれど、わざわざわたしのために、出来たてのパンや蜂蜜を用意していたのだとか…断っていたら、どうするつもりだったんだろう。。
しかも帰り際に「今日は来てくれて本当にありがとう!こんな美しい女性と二人っきりで食事する機会なんてめったにないんでね。」と、またまた恒例のリップサービス。
この神父さんが喜んでくれるなら、大変だけど、オルガン弾き、がんばってみようかな…と。
ドイツ語で、「才能」のことを「Gabe」と言いますが、この言葉の語源は「世の中に役立てるために神から与えられたもの」という意味です。わたしに少しでも音楽的「才能」があるのなら、初めて人の役に立つことができる才能、まさに、Gabeだな…と思います。