ドイツ人にとってのアルザス地方

フランスの怪異村を後にして、ようやく辿り着いたアルザス地方、見慣れた景色にほっとしました。何がほっとするかって、アルザスの風景はもう、殆どドイツだからです。「ドイツ国境はすぐそこ」だということを実感します。

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これはアルザス地方のリボーヴィレという街の市庁舎ですが、バルコニーのフランス国旗がなければ西南ドイツの街だと言われてもわかりません。

アルザスにはこれまで何度も来ていて、こちらのブログにも2014年のアルザス旅行の記事があります。「フランス旅行」カテゴリの中にあると思います。そちらでも触れましたが、アルザスは元々現在のドイツに当たる神聖ローマ帝国領として発展してきた地域ですが、17世紀頃にフランスが勢力を拡大、18世紀には完全にフランスの支配下とされます。ところが1871年に、同年にドイツ統一を成し遂げるプロイセンがフランスを破ると、再びアルザスはドイツ領となります。その後、二度の世界大戦で、フランスに支配されたり、ドイツに奪い返されたり…最終的には1944年のドイツ軍の敗走によりフランス領となって現在に至ります。

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上の写真は2014年の旅行記でも紹介したコルマール。怪異村から走り続けることほぼ一晩、最初に辿り着いたアルザスの街です。写真ではわかりにくいかもしれませんが、クリスは偶然にもトミー・ヒルフィガーのドイツ国旗の付いたポロシャツを着ています。アルザスではちょっと挑発的だったかもしれませんw

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こちらも2014年に訪れているリクヴィール。今回も寄ってみました。

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ボーイスカウトがなんだか絵になってますね。

コルマールやリクヴィールといったアルザスの小さな街や村は、日本でも「ハウルの動く城」の舞台と言われるほど、可愛らしく、メルヘンチックな美しい街並みが有名です。特にこのリクヴィールはフランスで最も美しい村とも言われています。
日本から観光に来れば、きっと感動すること間違いなし!…なのですが、クリスはいつ来てもなんだか複雑な気分になるようです。

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例えばこの木組みの家々、リクヴィールの街並みですが、日本人が京都の町屋を見て「典型的な日本家屋だ」と思うようにクリスはこれを見て「典型的なドイツの家だ」と思うようです。

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また、リクヴィールの街で観光客向けに売られているハート型のこの食べ物、ブレッツェルという南ドイツのパンです。日本人がたこ焼きを見て「典型的な日本の食べ物だ」と思ったり大阪を思い浮かべたりするように、クリスはこれを見て「典型的なドイツの食べ物だ」と思ったりバイエルンを思い浮かべたりするようです。

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この真ん中のステム(脚)の部分が緑色になっているグラスを見たクリスが唖然としていましたが、これはドイツではライン地方特有のワイングラスとして知られています。わたしが「アルザス特産品て書いてあるよ!」と言うと、「なんだって!?パクリだろ、パクリ!これはドイツのものだ!」とクリス。

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極め付けがこれ。「WINSTUBってなんだよ!?WEINSTUBE(ワイン処)だろ!!」とクリス。これは例えていうなら日本人が海外で「Geisha Bar」という看板を見て「インチキだろ!」と思う感覚に近いかもしれません。

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こうしたブドウ畑なんかも典型的なアルザスの風景なんでしょうが、これもそのままドイツのライン地方の風景だと言われてもわかりません。道端にはあちこちに「Riesling」という看板が出ていますが、Rieslingとはドイツの代表的なワイン品種です。「で、ここでとれたRieslingを“フランスワイン”と銘打って売ってるんだろ、詐欺だろ、詐欺!」とクリス。

こうしたことは、この地域がかつてドイツ語圏に属していたことを如実に物語っています。わたしは純粋に興味深いと思うのですが、隣を歩いているクリスを見ると何やら機嫌を損ねているようなので「可愛い街じゃない!素直に楽しめばいいじゃない。」と言うと、「あのね、例えば韓国の有名観光地に行ってみたら、素敵だって評判の街並みは全部日本家屋で歴史的建造物は全部日本の伝統的建築様式そのもの、“特産品”とか言って売られているものは全て日本の伝統工芸品、おまけにハングルで“SAKE”と書かれた日本酒が“韓国酒の一種”として売られている、そういう光景を思い浮かべてみてよ。その街を築いたのも、産業を築いたのも、暮らしていたのも、明らかに日本人なのに、現在そこに住んでいる人間は残らず韓国語を話していて、君が日本語で話していると不愉快そうにジローっと見てくる、日本人が築いた街で日本食と日本酒と日本の伝統工芸品を“韓国特産”だと言って観光客に売りつけて、現在の住人である韓国人が金儲けしている、そんな街があったらどう思う?素直に“素敵な街!”なんて思える?」とクリス。

…なるほど。。日本人の北方領土に対する気持ちに近いような感情ですね。
勿論これはクリスの個人的な感情ですので全てのドイツ人がこう思っているというわけでは決してないでしょうが、クリスもわたしとアルザスを訪れるのはこれで三回目か四回目ですが、こうした感情を吐露したのは初めてです。これは妻であるわたしにだけ打ち明けるような、秘められた心の奥底の深い感情なのだと思います。

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不貞腐れ気味のクリスを説得し、まだ行ったことのなかったアルザスの街、リボーヴィレを訪れてみました。

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本当にドイツの街にそっくりですね。

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フランクフルトにもこんな一角がありますね。

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アルザス地方と言うと、日本でもフランス人作家アルフォンス・ドーテの祖国愛短編小説「最後の授業」が公立学校の歴史の授業で取り上げられたりなどして「ドイツに侵略・占領され、奪われてしまったが、第二次世界大戦の勝利によってフランスに取り戻され、ハッピーエンドを迎えたフランスの一地方」というイメージが強いかと思います。

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確かに中心都市のストラスブールはフランス的なきらびやかさのある街ですが、リクヴィール、コルマール、そしてこのリボーヴィレのような小都市や村などは、ドイツ文化の影響が非常に色濃く残っていて、まさにこの記事の一枚目の写真が象徴するように「ドイツの地方小都市にフランスの国旗を取り付けた」感がしなくもないです。

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家々の表札を見てもドイツ系の名前ばかりだし、地元の人たちの顔つきも、クリスに言わせれば「フランス語をしゃべっているだけで全くのドイツ人」です。上述のドーテの小説は、プロイセンに支配されることになったアルザスの小学校で、フランス語の授業を禁じられたフランス語の先生が、最後の授業で黒板にフランス語で「フランス万歳!」と書いて授業を締めくくるという感動のストーリーですが、クリスは直感的に「ここに住んでいたドイツ人に“今日からお前たちはフランス人だからフランス語を話せ!”と言って洗脳したんだろ」なんて言っていました。ドーテが聞いたら怒りのあまり卒倒しそうです。

でも、肝心のアルザスの人々はどう思っているのでしょうか。

クリスが「ドイツ語の劣化版」のように感じた「WINSTUB」は実はアルザス語というこの地方独特の言語です。これはフランス語とは全く違う言語で、言語学的には南ドイツ語の方言であるアレマン語に属する低地アレマン語の一枝葉となります。つまり平たく言えばドイツ語の一種ということになりますが、クリスが「インチキドイツ語」と感じてしまうほど、ドイツ語であってドイツ語でない、つまり標準ドイツ語とは一線を画す独自の言語と言った方がいいかもしれません。

このアルザス語が象徴するように、アルザスの文化は独仏の融合のようにみえて、本質的にはフランス文化ともドイツ文化とも一線を画す、独自の文化なのではないでしょうか。ドイツ人のクリスが「これはドイツのものだ!」としか思えないようなアルザスの風物は、この地域が文化的にはドイツ語圏に属していることを物語っていますが、ワイングラスに「アルザス特産品」とわざわざ書くほど、彼らはドイツ語圏とは一線を画そうとしているし、また、ワイン品種をcépageとフランス語で呼ばずにRieslingとわざわざ呼ぶほどフランス語圏とも一線を画そうとしているようにも見受けられます。そして、わたしが現在のアルザスの人々と接していて感じるのは、「我々はドイツ人でもフランス人でもなくアルザス人だ」というような意識です。

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この可愛らしい建物はホテルのようです。
ドイツ人もフランス人も、この地域に関しては今でも複雑な気持ちを抱いているのかもしれませんが、日本人にとっては絵に描いたような美しいヨーロッパの風景が広がっています。

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こちらの建物もホテルのようですが、もしもママたちがいつかアルザスに一緒に行きたいといってくれたら、こういう所に泊まるのもいいかもしれませんね。
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クレマチ店主(母)/アコ(娘)+クリス(娘婿)

Author:クレマチ店主(母)/アコ(娘)+クリス(娘婿)
はじめまして!
アンティークショップ「クレマチス」(http://antique-clematis.sakura.ne.jp)店主の娘、アコです。

日本の古いものは大切に、でも、新しいもの・異質なものも寛容に受け入れる…そんな母の元、小さいころから日本舞踊を習い、現「クレマチス」店舗である祖母の古い日本家屋で、着物や日本の古いものにたくさん触れる一方、ピアノや外国語を習わせてもらったり、父の趣味であるクラッシック音楽や西洋美術を身近に触れる日々を送ってきました。

そんな両親の教育が功を奏し…いや、仇となり(?)、実生活にはあまり役に立たない比較文化分野で大学に居残り、これまたあまり役に立たないドイツ語だけペラペラに。おまけに語学を通して若くてイケメンな(笑)ドイツ人の夫と出会ってしまい、海外に嫁ぐという親不孝っぷり。

そんな娘を、ずっと温かく見守ってくれていた母。そんな母が、「古いものを大切にする喜びを、少しでも多くの人と分かち合いたい」という純粋な気持ちで、亡き祖母の家で始めた小さなアンティークショップ。元々、ずっと苦楽を共にした姑である祖母の家を、大好きなアンティークに囲まれた素敵な空間にしたい…という素朴な思いから始めたこのお店が、あれよあれよという間にいろいろなご縁を引き寄せて、母はいつの間にか、昔夢見たアンティークショップの店主になってました。

「古き良きものに洋の東西はない。和と洋は、互いを引き立て合う良きパートナーになれる!」…母が「クレマチス」で体現している価値観は、わたしたち夫婦のモットーでもあります。

このブログでは、そんな母と二人三脚で、「クレマチス」のお店の情報と併せてドイツの生活・風物について少しずつ紹介していきたいと思います。
どうぞよろしくお願いします。

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