ドレスデンのクリスマス市

クリスマス市はドイツ全国どこにでもあり、もちろんベルリン市内にも山ほどあるにもかかわらず、どうしてわざわざドレスデンなのかというと、お目当てがドイツ小物だからです。というのも、ドレスデンはドイツ小物のお膝元なのです!
ママのお店、クレマチスにも毎年送っているドイツレース、プラウエナー・シュピッツェンの生産地であるプラウエン、それから木彫りの人形やクリスマス飾りなどで有名なエルツゲビルゲも、ドイツのどこにあるのかというと、みんな東ドイツのザクセン州。そして、ドレスデンはそのザクセン州の州都なのです。だからここのクリスマス市には、毎年ドイツレースやドイツ小物の老舗屋台が軒を連ね、ドイツで最もたくさんの本場のドイツレース・ドイツ小物が集まるのです。
さて、そんなドレスデンですが、かつてはマイセン陶磁器を生み出したザクセン公国の都でもありました。近隣には、マイセン陶磁器生産地の街、マイセンもあります。隣の軍事国家プロイセンと違い、ザクセンはどちらかというと戦争・征服よりも文化・芸術を愛する王家に支配され、華やかな宮廷文化の中心地となり、美しい宮殿とバロックの街並みは「エルベ川のフィレンツェ」と称されるほどに発展しました。
(写真:ドレスデンのゼンパーオペラ劇場)

しかし、第二次世界大戦末期、米英軍による徹底した絨毯爆撃に遭い、街の85%が焼失。美しかった宮殿群・街並み・教会群は灰燼に帰してしまいました。戦後はソ連軍に占領され、その後は共産主義の東ドイツ領となり、工業都市として再建が図られたため、市内には醜悪で質の悪いソ連式高層工業団地や工場群が至る所に建てられました。90年代のドイツ統一後は逆にこの工業都市が大量の失業者を生み出し、郊外ではネオナチの犯罪などが増加して治安も悪化、一時は典型的な荒廃した旧東ドイツの地方都市と化していました。
そんなドレスデンですが、戦争で破壊された美しい街並みを再建しようとする努力が2000年代になって実を結び、廃墟のまま放置されていた宮殿や、瓦礫の山のままだった教会などが、世界中からの寄付金を元に再建され、それに伴い世界中から観光客が訪れるようになり、経済も治安も回復、現在のドレスデン中心部は、壮麗なバロック建築の街並みに高級ブティックや高級ホテルが建ち並び、かつての歴史ある王都の威厳を取り戻しつつあります。
ちなみに、街並みを再現する際に、瓦礫から掘り出したオリジナルの部材をコンピューターを活用して可能な限り元の位置に組み込むという、他のドイツの都市でも採用された再建方法が採られたため、ドレスデンの復元された建造物は、ドイツの他の再建された都市同様、今でも空襲の煤で真っ黒なのです。

その、ドレスデンのクリスマス市、日曜日ということもあり、賑わっていました!入り口にはヨーロッパ中からの観光バスが乗りつけ、日本からの観光客の姿もちらほら。わたしたちのドイツ小物の収穫もまずまずでした。

かつてのプロイセンの帝都ベルリンのクリスマス市は、どちらかというとモダンでエンターテイメント性を追求したテーマパークと化していて、年々その傾向が酷くなるのでドイツ中から非難を浴びているのですが、それに比べ、文化王国ザクセンの都だったドレスデンのクリスマス市は伝統的で、「これぞ、本場!」の風格を保っています。地元の人たちも、プロイセン人のベルリンっ子がどちらかというと粗野でぶっきら棒なのに対し、ドレスデンの人たちは上品で穏やかです。
とはいえ、ロマンチック街道のある南ドイツや、EU経済の中心地である西ドイツに比べ、東ドイツはまだまだ訪れる人も少なく、ドレスデンのクリスマス市もまだまだ穴場。ドイツのクリスマス市、一つくらい行ってみたいけど、どこがいいのだろう…と迷ったなら、ドレスデンも悪くないかもしれません。