アンティークアクセサリーの時代
他の街では冬になっても屋内でフリーマーケットを開催したりするのですが、ミュンスターは屋外の宮殿前広場が会場なので、夏季限定です。今回も、ママのお店のために、クリスが値切り交渉頑張って、沢山仕入れました。

優しいご夫婦が経営するこちらのお店の前を通りかかった時、クリスがふと、銀細工のアクセサリーに目を留めました。それは、銀を非常に細い糸状にして、まるでレース編みのように丁寧に仕上げたお花のブローチとネックレス。聞けば、元々この手法はヨーロッパでアクセサリーの材料に乏しかった19世紀に、貴重な銀を少しでも華やかに見せるために生まれた工法だそうです。それが、1910年代の第一次世界大戦で貴金属が武器製造優先に消費されるようになると再び盛んになり、また、1930年代、今度はいよいよ第二次世界大戦の足音が聞こえ始め、再びアクセサリー用の貴金属が枯渇し始めた頃に盛んに作られるようになったとか。つまり、世相が不安定になると流行りだすアクセサリー。
アンティークを愛するお店のご主人が言うにはお花のブローチはポルトガル製で、恐らく第一次世界大戦頃のもの。そして、銀細工を木の葉のチェーンのように繋いだシンプルなネックレスは恐らく1930年代のドイツ製なんだとか。
「このネックレス、今までに本当に色んな人が欲しがって、試着したんだけど、皆さん首が太すぎて、誰にも合わなかったのよ。相当華奢な女性の持ち物だったのね、きっと。」とお店の奥様。興味をそそられ、ネックレスを手に持ってみました。
…そして、ふと、思い出したのですが…そういえば、この日、蚤の市に来る前、明け方にちょっと変わった夢を見たのでした。それは、わたしが1930年代の、ヒットラー政権時代のドイツの女優になった夢。女優といっても、マレーネ・ディートリッヒのような大女優ではなく、地方舞台の公募オーディションを片っ端から受けては結果にドキドキしているような、そんな女優さん。その感覚や、色彩が妙に鮮やかで、第二次世界大戦間近の緊迫した社会の雰囲気まで異様にリアルで、不思議な夢でした。
それが、その日の午後、訪れた蚤の市で、1930年代の銀のネックレスを手にしたとき、ふと、「あ、これ、貴女のものだったのね!」と思ったのです。
「あら、気に入ったの?着けてみる?…これで何人目かしら、お試しするの。まるでシンデレラの靴みたいね。」とお店の奥様。そして…はめてみると、まるでオーダーメイドのようにぴったり!長すぎず、短すぎず、丁度良いのです。これにはお店の奥様もご主人も大喜び。「やっとこのネックレスがぴったりの人が現れた!」と大はしゃぎ。奥様は感激のあまり、わたしにアンティークの香水瓶をプレゼントしてくれました。「これは、人に譲っちゃだめよ!」と念を押されました。…ということで、このシルバーのネックレスだけは非売品です(笑)。
ところで、こうしたアンティークアクセサリー、現代のファッションに合わせても十分素敵ですが、あえて当時のファッションに合わせてみるのもまた一興です。

1930年代といえば、20年代のギャルソンヌ旋風がひとまず収まり、反動で女性的なファッションが再び流行した時代でした。ファーやレース、ゴールドの色彩が多く取り入れられ、20年代とは打って変わって女性らしい体形を強調するドレスが好まれたそうです。また、お化粧は限りなく王道フェミニン…細い弓型眉や真っ赤な口紅が流行し、コテで前髪をくりんくりんにするピンカールも流行りました。一方、街中に再び軍服姿が溢れるようになり、その影響で、肩を強調するミリタリー風のスーツが好まれたそうです。
そんな1930年代ファッション、昨今形を変えて再び流行の兆しにあるのだとか。「世相がなんとなく似ているから」と言う人もいますが、戦争前夜のそんな世相には、似てほしくないものです。ファッションはとっても素敵なので、復活、大歓迎ですが…。