ドイツから陸路で行くノルマンディー紀行~サン・マロー編~

因みにこの街は既にノルマンディーではなく隣のブルターニュ地方になります。昼になり、天候も良くなり、絶好のお散歩日和というか、犬日和!実はこの街、何の変哲もない鄙びた漁港で特に観光名所も何もないため、日本の旅行ガイドには殆ど載っていないのですが、旅先でお散歩するのが大好きなドイツ人の間では有名で、ドイツの旅行サイトで「浜辺のお散歩に最適な街」として紹介されていたのをクリスが見つけてきたのです。犬立ち入り禁止のモンサンミッシェルでは車で待ちぼうけだったグスタフを思いっきり走らせようと思います。

グスタフがどこにいるかわかりますか?北フランスの磯の風景です。この時は引き潮で、むき出しになった海底にボートや漁船がゴロゴロ転がっている状態です。

砂浜では地元の学生たちがビーチバレーを楽しんでいて、「アトンシオーン!アトンシオーン!(注意して!)」という叫び声がしょっちゅう聞こえてきます。ドイツ語では「Achtung!(アハトゥング!)」なんですけどね。わたしたちはあまりフランス人と関わったことがないんですが、ドイツの戦争映画なんかでフランス兵が「アトンシオーン!アトンシオーン!」と叫んで逃げ回っているシーンをよく見かけたものです。ホントに「アトンシオーン!」なんだwとちょっと面白かったです。

グスタフは浜辺に打ち上げられた海藻のにおいをかいだり、岩場に駆け上がったり、磯の散歩を満喫中。

他にも犬を散歩させている人たちが何人かいましたが、フランス人は驚くほど礼儀正しいのです。グスタフを遊ばせていたら、茶色のブリタニースパニエルと思われる犬を連れた若い女性二人組が近づいてきました。ドイツだとこういう場合、何か癪に障ることがあって文句を言いに来た…というケースも多々あるので、何か言われるんじゃないかと身構えましたが、非常に丁寧なフランス語で「うちの犬をリードなしで走らせてもいいですか?うちの子は誰とでも仲良くできるんですが、お宅のワンちゃんがそうでないなら近づかないように注意しますけど、どうですか?」と聞かれました。残念ながらわたしのフランス語はこういう込み入った内容を一語一句正確に聞き取って即座に応答できるほどではないので、念のため、クリスが英語で聞き返すと、相手は少し動揺して、たどたどしい英語で先ほどと同じことを繰り返しました。
グスタフは単独でアナグマとの一対一の対決を制することに徹してきた猟犬の血筋のため、誰とでも仲良くできるタイプではありません。それを伝えると、女性二人は笑顔で了解し、少し離れたところで自分の犬とボール遊びを始めました。このブリタニースパニエルは「ダルタニアン」と呼ばれていました。ダルタニアンとは、アレクサンドル・デュマの小説「三銃士」の主人公です。ブリタニースパニエルは、まさにフランスのこの地方、ブルターニュ地方で生まれた犬種ですが、その名前がダルタニアンだなんておしゃれですね。
因みにグスタフは、WW2のドイツ軍の80センチ列車砲の名前でもあります。口径が80センチもある世界最大の大砲です。この列車砲のグスタフ、当初はフランスを征服用にマジノ線(ドイツ国境にフランスが建設した巨大地下要塞)を攻撃するために作られたものでした。実際には、ドイツ軍はマジノ線を迂回してベルギールートでフランスに攻め込んだためグスタフがマジノ線攻撃で使われることはありませんでしたが…。

さて、犬のグスタフは至って平和です。
穏やかな磯の風に吹かれ、暖かい日差しの中、のどかな漁村の浜辺を満喫しました。ドイツの旅行サイトのお勧め通り、本当に歩いているだけで気持ちの良い、のどかな鄙びたフランスの古き良き田舎町です。

この街のクレープ屋さんでお昼ご飯を食べたのですが、フランスのクレープは、ドイツの旅行サイトではイタリアのピザやイギリスのフィッシュアンドチップスのようなある種の簡易国民食であると紹介されていました。

こちらがフランスのクレープですが、ハムやソーセージが付いていて、「お菓子」ではなく「メインディッシュ」の扱いです。で、地元のお客さんたちの注文の仕方を見ていると、どうもこの「メインディッシュ」を食べ終わった後、「デザート」としてチョコレートやシナモンシュガーなどで味付けされた甘いクレープを注文するようです。因みに、写真左に写っている飲み物はシードルと言って、リンゴの発泡酒です。イギリスでは「サイダー」と呼ばれているものです。味はというとドイツのヘッセン州の特産品であるリンゴワインとほぼ同じ味です。もしかしたらドイツでApfelwein(リンゴワイン)と呼ばれているものはこのシードルと同じものなのかもしれません。
食事中、ウエイトレスがドアを開けっぱなしにしたままテラス席に出て行ってしまって全然戻ってこないため、レストラン内に冷たい風が入って来て寒かったので、クリスにドイツ語で「寒いからドア閉めて。」と頼みました。すると、隣の席に座っていたおばあさん二人組のうちの年上の方がフランス語で「わたしもちょうどそう思ってたのよ!寒いわよね。ドア閉めちゃって正解よ!」とニコニコ笑って話しかけてきました。突然のことだったので、片言のフランス語も出てこず、そのまま思わずドイツ語で「寒いですよね。」と返してしまったのですが、おばあさん、理解したようでそうそう、とうなずきます。それを見ていたもう一人の若い方のおばあさんが「ママ、英語わかるの?」と驚いて(フランス語で)聞いているのが聞こえてきました。「ママ」と言われた90歳位のおばあさんは「あれは英語じゃないわよ、ドイツ語よ!もう話せないけど、聞けば言ってることはわかるのよ。」と答えています。…ドイツ語のわかる、90歳位のフランスのおばあさん…波乱万丈の人生を歩んでこられたんでしょうね。
フランスでは、第二次世界大戦後かなり長いこと、ドイツに対する憎悪や敵対感情が強く、それこそ70年代位までドイツ語なんて公で話せるような状況ではなく、ドイツと縁があった人もドイツ語ができることはひた隠しにしていたのだ…と、ベルリンの職業訓練校のフランス語の先生が話していたのを思い出しました。

サン・マロー、特に何の変哲もない鄙びた漁村ですが、本当に素敵な街でした。何といっても人が皆親切でフレンドリーでよそ者にもオープンで、フランスのイメージがガラっと変わりました。ドイツのサイトで「古き良きフランスの田舎」と言われる理由もわかります。ドイツでは田舎と言えば人が保守的で閉鎖的で、よそ者である旅行者にあまりフレンドリーではないこともしばしば…なんですが、フランスのこの地方は違うようです。日本の田舎にも共通するような、素朴で暖かい、田舎の良さを凝縮したような街でした。
さて、時間が余ったのでもう一つ別の街にも寄ってみることにしました。こちらは海沿いではなく、森の中にあるフージュールという田舎町です。

この街で、美味しそうなパティシェリーを見つけたので、フランス名物マカロンを買おう!と入ってみました。クリスが英語で「マカロンありますか?」と店員さんの若い女性に話しかけると、女性の表情は明らかにパニックに!「うゎっ!英語だ!店長!!」と叫んでいます。わかったわかった…じゃぁフランス語で頑張るから…と思ったら、店の奥から50代位のエレガントで綺麗な女性が出てきました。この方が店長のようです。で、このお美しい店長さん、非常に流ちょうな英語で対応してくださいました。マカロンって、ドイツにも一応あるんですが、そんなに種類はないし、高いし、ドイツ化していて本場フランスみたいにカラフルじゃないから見た目も美しくないし、お味もやはりフランスに比べてかなり劣ります。そんなことを話していたら、店長さんが色々「多分フランスにしかない味」を勧めてくれました。その中に、「バラの花の味」というのがありました。これがまためちゃくちゃ美味しくて!これ以外にもここのマカロンは今まで食べた中で最高に美味しくて、もうドイツに帰ってもマカロンは食べられないや…と思いました。

さて、このフージュールという街には一応「観光地」があります。それがこのお城。中世のお城なんですが、今では全くの廃墟になっているようです。

もうちょっと色々見たかったけれど、雨も降ってきたことだし、今日はこれでホテルに帰ることにしました。
明日はいよいよこの旅の最大の目的、ノルマンディー上陸作戦の舞台を見に行きます。