エミール・ガレの作品たち

エミール・ガレ(1846~1904)は陶芸・ガラス工芸そして木工芸の三つの領域にいったいどれ程多くの作品を残したのでしょうか。
私たちが【ガレ】と呼ぶ時、それはあの美しいガラス作品を指すのではないでしょうか。
でもガレはその作家人生の初期の時代には軟質陶器のお皿やカップ、ポットなどの食器や日本の折り紙をモチーフにした置物など個性的な作品を作っています。また、ガラス作品を数多く手掛ける中で「その愛らしい花瓶を載せるテーブルが必要となり、銘木店に出かけ、光を受けて輝く木目の美しさに魅入られた」と彼の日記で打ち明けているのですが、それを機に丁寧な象嵌を施した美しい家具をいくつも作り出してもいます。

それでもやはり圧倒的に多くの作品があるのはガラス作品ですね。
固くてもろい、そして壊れやすい存在のガラスでこんなにも植物の生命力を力強く美しく表現できるなんて!と、いつまでも見入ってしまいます。
「ガレが植物学に対して早くから興味を示していたことは確かな事実だ。幼少のころから、植物界の驚異と固く結ばれていたのである。」とオルセー美術館アールヌーボー学芸員のフィリップ・ティエボー氏は書いてます。そしてこんな話を付け加えています。
「ガレが庭や野の植物を偏愛し、豊富で正確な資料を所持しているわけを知ろうとするなら、彼が遺伝的に幼いうちから、周囲の人々と同様に花に取りつかれていたことを忘れてはならない」と。

そしてそれに続いて書かれている次の部分が私にはとても興味があり、ほほえましい想いです。
「ガレの生まれた家のあるファイアンス通りは、花市場に面していた。彼は家の窓から、ヒヤシンスやクロッカス、ゼラニウムやペチュニアといった花々が植わった鉢が届くのを見るのが好きだった。階段のステップや父方の家のバルコニーを、祖父母や伯母、彼自身、果ては老いた家政婦までが花でいっぱいにするのだった。」
幼い、或いは少年のガレが窓辺にもたれて愛らしい花で満たされた鉢がいくつも通りを渡って運び入れられるのをわくわくして見ている場面は映像として私の中にすんなりと入ってきます。
もしも、作家エミール・ガレの映画かドラマが作られるのなら、是非この1場面を挿入してもらいたいものです!

上の写真はトロイの神話をモチーフにした作品です。
植物の神秘・生命力をガラスの中に移し込んだような作品とは一味違った印象です。可能な限りの技術を用いて、壮大な物語の世界を表現しています。

植物が大好きな私としては、植物、とりわけ地味で小さな花やその実や種を描き出した愛らしい作品に心寄せる思いがありますが、こういったスケールの大きな作品にあらゆる技法で挑むガレの芸術家としての意気込みを感じます。