FC2ブログ

100年前のピアノ

クリスとわたし、実は今月ベルリンに引っ越しました。
新居に置く新しい家具を揃えるついでに、電子ピアノでも買うつもりでベルリン市内の楽器屋に行ったのですが、母譲りのアンティーク好きの血が騒いでこれを買ってきてしまいました。

CIMG1992_convert_20110724223148[1]

ドイツ製のアンティークピアノ、制作年を見ると、なんと、ちょうどわたしが生まれる100年前、19世紀に作られています。プロイセン王国がドイツを統一した十年後、ベルリンで作られて、それからずっと、ベルリンを見続けてきたピアノです。ヴィルヘルム二世の治世も、第一次世界大戦も、ワイマール共和国も、狂騒の20年代も、世界恐慌もヒットラー政権も敗戦もベルリン分割統治も東西冷戦もベルリンの壁崩壊も…全部知ってるピアノです。

実はわたし、子供の頃から結構本格的にクラッシックピアノを習っていて、一時は本気でピアニストになるつもりで毎年コンクールに出たりしてました。指を痛めたのと手が小さすぎるのとで、プロの道は断念したんですが、それでも未だにピアノにはとても思い入れがあるんです。

ドイツへ単身留学していた時のこと、学生証を濫用(笑)し、音大の練習室にこっそりしのびこんで毎日ちゃっかりグランドピアノで心行くまでショパンやベートーヴェンをガンガン弾きまくっていたことがあります。そうしたら、ある日、音大の教授が突然部屋に入って来たので、てっきり無断でピアノを使用したことを怒られるものと勘違いして「ええっと、入口に音大生のみ使用可って書いてなかったから…」と言い訳をまくしたてたところ…「いやいや、君の演奏をずっと聞いていたが、素晴らしいのでどこの学科の学生かと思って聞きに来たんだ。」とその教授。驚いて「すみません…、実は音大生じゃないんです。隣の総合大学の文学部の留学生です。」と答えると、教授は目を丸くして、「何!?うちの学生じゃないのか!…勿体ない。音楽をやるつもりはないのかね?」…小さい頃、「ピアノは趣味!」と割り切って以来、自分のピアノが上手か下手かなんて、あまり考えないようにしていました。…というか、むしろ下手な部類だと思っていました。それが、ドイツの小さな街でこんなことがあって以来、時々考えるのです。…もしもあの時、諦めずに音楽学校に通っていたら、わたしの人生はどうなっていたんだろう…と。

クリスと結婚した時の約束で、家を建てたらグランドピアノを買おう!ということだったのですが、ドイツに嫁いで以来二年間、全く鍵盤に触らない生活に、そろそろわたしが耐えられなくなってきたので、小さな住居に置ける電子ピアノでも買おうかということで、ベルリンに引っ越したついでにロシア人のやっている楽器店に行ってきました。将来グランドピアノを置くなら、本式の箱ピアノよりも電子ピアノの方がいいだろう…と思っていたのですが、お店で見せてもらった電子ピアノにはやはり到底満足が行かず…。

クリスが「インターネットでいろいろ調べたけど、最近は電子ピアノもものすごく精巧に出来ていて、ホンモノのピアノと音も引き心地もほとんど変わらないらしいよ!」と言うので、半信半疑でお店に行ってみたものの、やっぱり電子ピアノにピアノの代替を求めたらだめなんだとつくづく思いました。ポップスや現代音楽をやる人だったらむしろ電子ピアノの方がいいのかもしれませんが、クラッシックはどうしても…。ベートーヴェンの低音階やショパンの高音トリルなどを弾いてみると、やはり電子機器特有の音がします。

確かにクリスの言う通り、一部の高級電子ピアノは、ホンモノのピアノ特有のあの弾き心地をそっくりそのまま精巧に再現していて、音もホンモノさながらに強弱しっかり弾き分けられるように出来ているのですが、逆に言えば、電子機器がそこまで精巧にホンモノを真似てるところがかえっていやらしい気がしてしまうのです。それに、何よりも「ホンモノのピアノの音を録音した音だ」というのがまるわかりで、自分で弾いているのに誰かの音のコピーだ、という感覚が、わたしには我慢ならないのです。

その辺目をつむって、コレだったらなんとか我慢できるかな…というものの値段を聞いてみると、ウン千ユーロとか。これだけ妥協してそんな大金、払えないなぁ(笑)。

ということで、電子ピアノは諦めて、「小さいアパートに置けそうな小さめのピアノありませんか?」とロシア人のおばちゃん店員に聞いてみると、勧められたのは某有名メーカーの「最新モデル」。確かに小さいけど、弾かせてもらってみると、やっぱり音が気に入らない。「壊れにくい」とか「手入れが楽」とかそっちにこだわっているのはわかるのですが…。最近はピアノに限らずどこの世界でもハートよりも便利さや楽さが優先されている気がするのは、わたしがアンティーク贔屓だからでしょうか。そして、値段を聞いてみると、やっぱりこちらもウン千ユーロ。。これだけ妥協するんだったら、電子ピアノ同様、こんな大金払えませんw

「1000ユーロくらいで小さいアパートに置けそうな中古のピアノありませんか?」(予算もアパートも小さいのにいろいろこだわって申し訳ないのですが 笑)と聞いてみると、ロシア人のおばちゃんが「その予算だと、中古も中古、ものすごい古いのしかないわよ。」とものすごい強いロシア訛りで言うので、「それでもいいから見せてくれ」と言ってみると、「本当にものすごい古いわよ。古すぎてまともな音出ないし、汚いし、正直誰も買わないだろうと思ったから、別の通りの倉庫に置いてある。」と言うので、「全然かまわない!」と、クリスと一緒におばちゃんとそのピアノを見に行くことに。

ベルリン特有の、ユーゲントシュティール(アールヌーボー)な古い建物が連なる閑静な通りを幾つも抜け、いかにもベルリンらしいアルトバウ(時代様式)の古い大きな建物の中に通され、まるで昔の映画にでも出て来そうな古びた一室に、そのピアノは置いてありました。製造会社の名前の横に彫られた制作年を見てみると…ちょうどきっかりわたしの生まれる100年前。「知り合いが弾いてみたけど、まともな音出なかったわよ。」とおばちゃんが言うので、クリスが「妻は僕の中では最高のピアニストだ。妻が弾いてみてまともな音が出たら、修理代も運送代もタダにしてくれるか?」と、お得意のリップサービスと一緒に値下げ交渉。「いいわよ。どうせ誰が弾いても音出ないんだから。」

そこで、ショパンの幻想即興曲を弾いてみたところ、おばちゃんびっくり。「やだ!このピアノ、まだグランドピアノみたいな音が出るじゃないの!」当たり前よ。100年前の熟練職人が精魂こめて作った象牙のピアノよ、その辺の安素材の「最新モデル」のグランドピアノなんかより、本来よっぽどいい音がする筈なのです。

今時、グランドピアノにヘッドホンを付けようとか、全自動演奏機能を付けようとかそういう感覚はあっても、象牙で箱ピアノを作ろうとか、ゴテゴテに彫刻を施そうとか、そういう感覚はないのでしょうね。そもそも象牙なんてもうあまり取れないし、ゴテゴテに彫刻彫れる職人もいないし、19世紀にしか作られ得なかったピアノなんだなぁとつくづく思います。そして、激動の時代を奇跡的に乗り越え、今、21世紀に生きるわたしたちに、19世紀のあの時代の音を届けてくれるピアノ。わたしには、全自動演奏機能付きのグランドピアノなんかよりもよっぽど価値があるように思えるのです。

こうして我が家に来たこのピアノ。「まさかぁ」と思われるかもしれませんが、時々、ショパンの曲を弾いていると、ああ、この曲、前の持ち主も弾いたことがあるんだな…と、わかったりすることがあります。ある種の霊感と言えば霊感なのかもしれませんが、古いピアノが語ってくれるそういう物語が好きだから、アンティークのピアノを弾くのって楽しいのです。

さて、このピアノ、もしかしたらわたしが最後の持ち主になるのかもしれません。人間で言うともうおじいちゃんなので、練習で酷使するよりも、彼が一番良く知っている19世紀のクラッシックをゆっくり弾いて、楽しい余生を送ってもらえればと思っています。

テーマ : ドイツ生活
ジャンル : 海外情報

sidetitleプロフィールsidetitle

クレマチ店主(母)/アコ(娘)+クリス(娘婿)

Author:クレマチ店主(母)/アコ(娘)+クリス(娘婿)
はじめまして!
アンティークショップ「クレマチス」(http://antique-clematis.sakura.ne.jp)店主の娘、アコです。

日本の古いものは大切に、でも、新しいもの・異質なものも寛容に受け入れる…そんな母の元、小さいころから日本舞踊を習い、現「クレマチス」店舗である祖母の古い日本家屋で、着物や日本の古いものにたくさん触れる一方、ピアノや外国語を習わせてもらったり、父の趣味であるクラッシック音楽や西洋美術を身近に触れる日々を送ってきました。

そんな両親の教育が功を奏し…いや、仇となり(?)、実生活にはあまり役に立たない比較文化分野で大学に居残り、これまたあまり役に立たないドイツ語だけペラペラに。おまけに語学を通して若くてイケメンな(笑)ドイツ人の夫と出会ってしまい、海外に嫁ぐという親不孝っぷり。

そんな娘を、ずっと温かく見守ってくれていた母。そんな母が、「古いものを大切にする喜びを、少しでも多くの人と分かち合いたい」という純粋な気持ちで、亡き祖母の家で始めた小さなアンティークショップ。元々、ずっと苦楽を共にした姑である祖母の家を、大好きなアンティークに囲まれた素敵な空間にしたい…という素朴な思いから始めたこのお店が、あれよあれよという間にいろいろなご縁を引き寄せて、母はいつの間にか、昔夢見たアンティークショップの店主になってました。

「古き良きものに洋の東西はない。和と洋は、互いを引き立て合う良きパートナーになれる!」…母が「クレマチス」で体現している価値観は、わたしたち夫婦のモットーでもあります。

このブログでは、そんな母と二人三脚で、「クレマチス」のお店の情報と併せてドイツの生活・風物について少しずつ紹介していきたいと思います。
どうぞよろしくお願いします。

sidetitleカテゴリsidetitle
sidetitle最新記事sidetitle
sidetitle月別アーカイブsidetitle
sidetitle検索フォームsidetitle
sidetitleリンクsidetitle
sidetitleブロとも申請フォームsidetitle

この人とブロともになる

sidetitleQRコードsidetitle
QRコード