天使と鉱夫
![CIMG1443_convert_20111121211401[1]](https://blog-imgs-47-origin.fc2.com/a/n/t/antiqueclematis/20111122044547d73.jpg)
ドイツのクリスマスマーケットでは、上の写真のような小さな屋台で、伝統的な木製のクリスマス飾りがよく売られています。
中でもよく見かけるのが、このような一対のかわいらしい人形です。

両手に灯りを持ち、仲睦まじいカップルのようにも見えますが…これ、実は、左側は天使、そして、右側の男性は、鉱山で働く労働者なのです。この服装は、昔のドイツの鉱山労働者の制服を表しているのです。
…クリスマスの飾りなのだから、とりあえず天使はわかるとしても、なぜ、鉱山労働者なのでしょうか。その背景には、ドイツの悲しい歴史があるのです。
このペア人形をはじめ、ドイツの伝統的なクリスマス飾りの故郷は、旧東ドイツのザクセン州にあるErzgebirge(エルツゲビルゲ)という地方です。日本では、「エルツ山地」として知られています。16世紀、この地に鉱山が開かれ、その後約200年に渡って採掘が行われることになります。この鉱山での辛い労働に送り込まれたのが、エルツ地方の家庭の青少年たちでした。
当時の鉱山での労働は、厳しく、危険なものでした。若者たちは、まだ日が昇らない真っ暗な早朝のうちに坑内に送り込まれ、日中ずっと過酷な労働を続けた後、すっかり日が落ち、再び真っ暗になった後にやっと帰路に着きました。そのため、彼らが日の光を見ることはほとんどなかったと言われています。
また、坑内では頻繁に事故が起こり、その度に、大勢の若者たちが死んでいきました。
それでも、貧しかった当時のエルツ地方の人々は、そんな息子たちや若い夫の鉱山労働によって生計を立てるしかありませんでした。
家族のために、暗がりの中で、いつ命を落とすかもわからない鉱山労働に従事する若者たちを思って、この地方の人々が作り始めたのが、この天使と鉱夫がペアになった人形だったのです。
天使の人形は、鉱山で働く若者たちが見ることのできなかった光を表しているのです。…彼らの働く暗い坑道、家族の元へ続く暗い帰路を、いつも天使が照らしてくれますように…そして、せめて心の中では、いつも温かい愛の光が灯っていますように…どうか、息子を、夫をお守りください…この人形には、そんなエルツ地方の人々の願いが込められているのです。
現在、ドイツで最もポピュラーなクリスマスのモチーフの一つとなった「天使と鉱夫」。家族のために、辛い労働に励む人と、そんな家族の帰りを祈りながら待つ人が、クリスマスには一緒に家で平和な一時を過ごせますように…そんな願いを象徴しているようです。